レーザ安全基準

レーザの安全基準・安全対策

レーザは、加工、計測、医療など様々な分野で利用される非常に有用な技術ですが、その特性上、扱い方を誤ると人体(目や皮膚)への傷害や、出力が大きい場合には火災などを生じさせる危険があります。そのため、レーザ製品については、用途や出力、波長といった要素をもとに、人体へ及ぼす危険の度合に応じて分類(クラス分け)をおこない、その危険度(レーザクラス)ごとに、製造者使用者はそれぞれ必要な対策を講じる必要があります。

レーザ製品の製造者は、 IEC 60825-1 などの安全規格の規定に従ってレーザ製品を設計し、レーザクラスの判定をおこない、そのレーザクラスに必要な安全対策機能を搭載するとともに、警告ラベル使用上の注意を作成して使用者へ提供しなければなりません。

一方、レーザ製品の使用者は、レーザ製品の使用上の注意事項はもちろん、労働安全関連の法規も順守する必要があります。ここでいう「使用者」には、実際にレーザ製品を取り扱うユーザー(作業者)だけでなく、レーザ製品を導入し、労働安全環境の整備に責任を持つべき事業者自身も含まれます。

日本のレーザ安全基準・安全対策

日本の場合、製造者は、日本産業規格 JIS C 6802 「レーザ製品の安全基準」に従ってレーザ製品の設計をおこないます。
使用者は、労働安全衛生法と関連法規、特に、厚生労働省の通達「レーザー光線による障害防止対策要綱」に従って安全対策を講じる必要があります。
最終的にレーザ製品の使用される国・地域がどこなのかによって、従うべき規格や法令が変わってくるため、製造者・使用者ともに、海外での販売や使用を想定する場合は、注意が必要です。

JIS C 6802 の強制力について

JIS規格自体は任意規格であり、単独では法的拘束力を持ちません。法規(電気用品安全法など)に引用されて初めて強制力が生じることになります。したがって、強制法規の対象でないレーザ製品に関しては、日本国内での製造販売において、JIS C 6802 に準拠することは必須ではありません。

しかしながら、後述するように、レーザ製品の使用者からすれば、製品のレーザクラスがわからないと労働安全衛生法への対応のしようがありません。適切に製造者責任を果たし、ユーザビリティを確保することを考えると、法的拘束力は無くてもレーザ製品であれば JIS C 6802 へ準拠するべきでしょう。

「レーザ」と「レーザー」の表記揺れについて

JIS C 6802 「レーザ製品の安全基準」では「レーザ」、厚生労働省の通達「レーザー光線による障害防止対策要綱」においては「レーザー」と表記されるため、本ページでは原文に合わせて表記をおこなっています。

レーザ安全規格

ここでは、IEC 60825-1 (JIS C 6802) に基づいたレーザクラス分類と安全対策機能要求の概要について、まとめています。
※ JIS C 6802 は、IEC 60825-1 と整合しているため、技術的な差異はありません。

レーザクラス分類

レーザクラスレーザクラスの説明
クラス 1直接ビーム内観察を長時間おこなっても、またそのとき、望遠光学系を用いても安全であるレーザ製品。
可視光の場合、特に周囲が暗い環境では、目がくらむなどの視覚的影響が生じ得る。
クラス 1M裸眼(光学器具を用いない)で、直接ビーム内観察を長時間おこなっても安全であるレーザ製品。
光源の条件によっては、双眼鏡のような望遠光学系を用いた露光は、目の障害を引き起こす可能性がある。
可視光の場合、特に周囲が暗い環境では、目がくらむなどの視覚的影響が生じ得る。
クラス 1C医療、診断、手術、または美容への用途として、皮膚または体内組織にレーザ光を直接照射することを意図したレーザ製品。
出力されるレーザ放射は、クラス3R、3B、または4のレベルの場合もあるが、目への露光は技術的手段によって防止される。
クラス 2まばたきなどの通常の回避反応により、瞬間的な被ばくのときは安全であるが、意図的にビーム内を凝視すると危険なレーザ製品。
可視光(波長範囲:400~700 nm)を放射するレーザ製品のみが該当し得る。
ビームへのばく露によって、一時的な視力障害や驚きの反応が生じ得るため、機械作業や運転などの安全確保が肝要な行動中には、ビームにばく露しないよう特に注意を払う必要がある。
クラス 2M可視のレーザビームを出射するレーザ製品であって、光学器具を用いない裸眼に対してのみ、短時間の被ばくが安全なレーザ製品。
光源の条件によっては、双眼鏡のような望遠光学系を用いた露光は、目の障害を引き起こす可能性がある。
ビームへのばく露によって、一時的な視力障害や驚きの反応が生じ得るため、機械作業や運転などの安全確保が肝要な行動中には、ビームにばく露しないよう特に注意を払う必要がある。
クラス 3R直接のビーム内観察は障害を生じる可能性があるが、クラス3Bよりも障害のリスクが比較的小さいレーザ製品。
障害が生じるリスクは露光時間とともに増大し、意図的な直接的ビーム内観察による露光は危険なことがある。
クラス2同様、ビームへのばく露によって、一時的な視力障害や驚きの反応が生じ得るため、機械作業や運転などの安全確保が肝要な行動中には、ビームにばく露しないよう特に注意を払う必要がある。
クラス 3B目へのビーム内露光が生じると、偶然による短時間の露光でも、通常危険なレーザ製品。
拡散反射光の観察は通常安全である。
条件によっては、軽度の皮膚障害または可燃物の点火を引き起こす可能性がある。
クラス 4ビーム内の観察および皮膚への露光は危険であり、拡散反射の観察も危険となる可能性があるレーザ製品。
場合によっては、火災の危険性が伴う。

レーザクラスの説明について

上記のレーザクラス説明は、JIS C 6802 の記載を要約したものです。
詳細については、原文をご確認ください。

レーザクラス分けと AEL 計算の詳細については、以下を参照ください。

レーザクラス分けとAEL計算

コンテンツ1 レーザ製品のクラス分け (IEC 60825-1)2 レーザクラス分けの原則3 AEL (被ばく放出限界) の計算4 被ばく放出レベル(レーザパワー)の測定5 レーザクラス 分…

安全対策機能要求

箇条要求事項クラス 1クラス 1Mクラス 2クラス 2Mクラス 3Rクラス 3Bクラス 4
6.2保護筐体
6.3アクセスパネル・セーフティインターロック
6.4リモートインターロックコネクタ
6.5マニュアルリセット
6.6鍵による制御(キーコントロール)
6.7レーザ放射の放出警告
6.8ビーム終端器または減衰器
6.9制御部
6.10観察用光学装置
6.11走査に対する安全防御
(スキャニングセーフガード)

○:必要
△:条件による
ー:不要

ラベル・情報提供要求

箇条要求事項クラス 1クラス 1Mクラス 2クラス 2Mクラス 3Rクラス 3Bクラス 4
7.2~
7.7
クラスのラベル(説明ラベルと警告ラベル)
7.8開口ラベル
7.9放射出力ラベル
7.9規格情報ラベル
7.10.1パネルに対するラベル
7.10.2セーフティインターロックパネルに対するラベル
7.11, 7.12可視・不可視レーザ放射に対する警告
7.13火傷警告ラベル
8.1使用者に対する情報
8.2購入およびサービスのための情報

○:必要
△:条件による
-:不要

警告ラベル
(危険シンボル)
説明 / 放射出力 / 規格情報ラベルの例
(レーザクラス2の場合)
代替ラベルの例
(レーザクラス1の場合)

レーザー光線による障害防止対策

ここでは、厚生労働省の通達「レーザー光線による障害防止対策要綱」の概要についてまとめています。
当該要綱の目的は、レーザー機器を取り扱う業務またはレーザー光線にさらされるおそれのある業務に常時従事する労働者の障害を防止することです。
クラス1M、2M、3R、3Bおよびクラス4のレーザー機器を用いておこなうレーザー業務が対象となります。

レーザー機器設計のポイント

逆に言えば、クラス1およびクラス2のレーザー機器は対象外となるため、ユーザーにとって取り扱いやすい機器と言えます。
機能が同等でも、設計の工夫により低レーザークラスが実現できれば、競合他社の製品との差別化につながり、商品力の向上に寄与するでしょう。

レーザー光線による障害を防止するための措置

当該要綱においては、レーザー光線による障害を防止するための措置として、

  1. 労働衛生管理体制の整備
  2. 「レーザー機器のクラス別措置基準」に基づいて必要な措置を講じること

の2つが要求されています。

労働衛生管理体制の整備

労働安全衛生法の規定による労働衛生管理体制を整備することに加えて、クラス3R、3Bおよびクラス4のレーザー機器を取り扱うにあたっては、「レーザー機器管理者」を選任し、必要事項を実施させることとされています。ただし、クラス3Rのレーザー機器が対象になるのは、400~700 nmの波長域外のレーザーを放射する場合に限られます。

レーザー機器管理者は、以下の必要事項を実施する必要があります。

  • レーザー光線による障害防止対策に関する計画の作成および実施
  • レーザー管理区域の設定および管理
  • レーザー機器を作動させるためのキー等の管理
  • レーザー機器の点検、整備およびそれらの記録の保存
  • 保護具の点検、整備およびその使用状況の監視
  • 労働衛生教育の実施およびその記録の保存
  • その他レーザー光線による障害を防止するために必要な事項

レーザー機器のクラス別措置基準

取り扱うレーザー機器のレーザークラスに応じて、各種措置を講じる必要があります。

措置内容
(項目のみ)
クラス 4クラス 3Bクラス 3Rクラス 2Mクラス 1M
レーザー機器管理者の選任
管理区域
(標識、立入禁止)
レーザー機器レーザー光路光路の位置
光路の適切な設計・遮へい
適切な終端
キーコントロール
緊急停止スイッチ等緊急停止スイッチ
警報装置
シャッター
インタロックシステム等
放出口の表示
作業管理・健康管理等操作位置
光学系調整時の措置
保護具保護眼鏡
皮膚の露出の少ない作業衣
難燃性素材の使用
点検・整備
安全衛生教育
健康管理前眼部(角膜、水晶体)検査
眼底検査
その他掲示レーザー機器管理者
危険性・有害性
取扱注意事項
レーザー機器の設置の表示
レーザー機器の高電圧部分の表示
危険物の持ち込み禁止
有害ガス、粉じん等への措置
レーザー光線による障害の
疑いのある者に対する
医師の診察、処置

○:必要
△:400~700 nmの波長域外のレーザーを放出する場合は必要
-:不要

レーザ安全基準の参考情報

外部リンク

日本産業標準調査会 (JISC)利用者登録をおこなえば、無料でJIS規格の閲覧が可能です。
JIS C 6802 「レーザ製品の安全基準」も閲覧することができます。
レーザー光線による障害防止対策要綱
(昭和61年1月27日 基発第39号)
(改正 基発第0325002号 平成17年3月25日)
厚生労働省の通達原文を確認することができます。(PDF)

各国のレーザ安全基準

海外のレーザ規制・安全基準については、以下を参照ください。

米国

米国 FDA (CDRH) のレーザ製品に対する要求

コンテンツ1 米国 FDA (CDRH) のレーザ安全基準 21 CFR Part 10402 FDA (CDRH) レーザ規制 21 CFR Part 1040 の申請手順3 FDA (CDRH) へ提出・申請すべきレ […]

欧州

IEC/EN 60825-1 規格改正情報

コンテンツ1 IEC 60825 ED4 (第4版)2 IEC 60825:2014 (第3版)3 EN 60825-1:2014/A11:2021 への切替対応期限4 EN 50689:2021 発行5 IEC/EN […]